というわけで観て来ました。映画ファーストマン。
結論から言うと面白かったです!
...が!アメリカの宇宙開発史を知らないと眠くなる事必至です!
実際興行成績は伸びておらず、このままズルズルと順位を下げ、公開終了を向かえるでしょう。
なので今回は、映画ファーストマンが少しでも楽しくなるよう、私が知っている限りの事を補足したいと思います!
映画の基本情報
監督:デイミアン・チャゼル
主演:ライアン・ゴズリング
米国配給:ユニバーサル・ピクチャーズ
日本配給: 東宝東和
日本公開: 2019年2月8日
上映時間: 141分
製作費 $59,000,000(ざっくり60億円)
監督はデイミアン・チャゼル「セッション」や「ラ・ラ・ランド」など、近年の話題作を作っている監督です。
主演のライアン・ゴズリングは、ラブ・アゲイン、ナイスガイズ!、きみに読む物語、ドライヴ、ブレードランナー 2049など売れに売れている人気俳優の1人で、ララランドのでも主演をしているので、同監督同主演のコンビになります。
製作費60億円がどれくらいかと言うと、
- 日本映画と比べると超高額
- ハリウッド映画の中では低予算
といった感じです。日本では10億越えれば十分高額の仲間入りなので、そういう意味では60億円は超高額です。20世紀少年が3部作で60億、かぐや姫の物語が50億で超高額と言われる世界です。
一方、タイタニック、ハリポッター、ダークナイト、マッドマックなど100~200億円の製作費がゴロゴロいり海外映画の中では、割と低予算の部類に入ります。デットプール2がファーストマンと同じくらいの製作費です。
基本情報は心当たりにして、映画の内容に入って行きましょう。
ニール・アームストロングとはどんな人物か
精神的に健康すぎるほど健康な人で、反面人間的面白みにはまるで欠けた人物。驚くほど自己抑制がきく人で、いかなる場面でもパニくるとか、感情が激するといったことがない。
と評しており。
オタキングこと岡田斗司夫氏は「 世界一面白くない男」と称しています。
これらからわかるように、劇中でも彼が喜怒哀楽をわかりやすく表現することは多くありません。そのため、彼が一体何を考えているのか、妻のジャネットも分からない様子が描かれています。
主人公を感情を観客が推し量るといった意味で、文学性が高い作品と言えます。
ただ、ヒントは散りばめられています。劇中、月や穴を見つめるシーンが多々登場しますが、月や穴は死を表しています。つまり、彼は終始死を見つめながら生きていることが分かります。ここについては後述します。
さて、そんなニール・アームストロングの一生をまずはざっくりおさらいしてみましょう。
ニール・アームストロングの一生
まずは今作の主人公ニール・アームストロン氏の一生をざっくり年表にしてみました!
1930年:オハイオ州で誕生(0歳)
1941年:日本の真珠湾爆撃を聞いてびっくり(11歳)
1947年:パデュー大学で航空学を学び始める(2年間)
1949年:海軍に入る
1950年:海軍飛行士になる(20歳)
1951年:朝鮮戦争に参加
1952年:海軍を除隊し、パデュー大学復学
1955年:大学で航空工学の学位を取って卒業、エドワーズ空軍基地に就職
1956年:ジャネット・シャアロンと結婚
空軍でX-15のテストパイロット時代
→アイゼンハワー大統領と空軍の関係悪化でX-15テスト中止
→ケネディが大統領が宇宙開発に力を入れ始める
→マーキュリー計画成功で空軍では宇宙に行けないことを悟る
1962年:NASAの宇宙飛行士になる(32歳)
1969年:月面探索(39歳)
1972年:NASAを退官し、大学で教え始める(42歳)
1994年:ジャネット・シャアロンと離婚し、キャロル・ナイトと再婚(64歳)
2012年:死去(82歳)
映画の冒頭はX-15のテストパイロット時代がから始まり、第2子もいることから、1960 or 61年がスタートしていると思います。映画の最後は月面探索後なので、1969年でしょう。映画はこの約8年間の話です。
まとめ:映画は1961年の空軍のテストパイロット時代から、NASA所属で1969年に月面探索をした少し後までの話。
ざっくりアメリカの宇宙開発史
次はこの映画をみる上で押さえておきたい、アメリカの宇宙開発史です。あまり詳しく語るとヒジョーに長くなるのでざっくり!
1958~63:マーキュリー計画
マーキュリー計画の目的はズバリ"人類を宇宙に送ろう"。
アメリカは国家の威信をかけて宇宙開発に着手、そしてその中心機関としてNASAを発足。結果、アメリカは1962年にジョン・グレンを地球周回飛行させることに成功します。
しかし、ソ連はそんなアメリカに先んじて1961年にガガーリンを人類史初宇宙に行かせることに成功しました。
(ソ連の宇宙飛行士ガガーリン、有名なセリフが「地球は青かった」)
このあたりあたりはキッチリ映画化されており、宇宙飛行士視点だと「ライトスタッフ」、事務方視点だと「ドリーム」が参考になります。
ライトスタッフ
マーキュリー計画に従事した宇宙飛行士達を描いた作品。
宇宙飛行士にとって、ライト(正しい)なスタッフ(資質)とは何かを巡る話です。
作中にも出てくるジョングレンが、アメリカ初の地球周回飛行を行いました。
(アメリカ初の地球周回飛行を行ったジョン・グレン、写真はNASA公式HPより)
ドリーム 私たちのアポロ計画
マーキュリー計画に計算手として参加した黒人女性達を描いた作品、宇宙開発史だけではなく、当時、NASAにすらあった差別を描いた伝記映画。
日本では最初の邦題が「ドリーム 私たちのアポロ計画」となり炎上もしました。
炎上の原因は「ジェミニ計画の話なのに、なんでアポロ計画って邦題やねん!」的な感じです。個人的には、邦題のこう言った話は今に始まった事ではないので、騒ぐことの事ではなかったかなと思ってます。
先ほど紹介したアメリカ初の地球周回飛行をしたジョングレン氏は、こちらにもちゃっかり登場。
1961~66:ジェミニ計画
ジェミニ計画の目的は月面着陸のための技術を開発すること。なので、その後のアポロ計画のための計画という事になります。
1961~72:アポロ計画
ご存知アポロ計画。この計画の一環として、アームストロング氏は月面到達を果たしました。
ケネディ大統領は1961年の演説で、60年代中に月面着陸を達成し地球に帰還させる事を表明しましたが、その宣言は無事達成されました。
ちなみに左後ろでみているのが、ケネディ暗殺の主犯とされている副大統領のリンドン・ジョンソンです。彼を主演にした映画が「LBJ ケネディの意志を継いだ男」。
以上3つの計画の年次を見てもらえれば分かりますが、この3つは順番に行われた訳ではありません。
先にマーキュリー計画が始まり、61年のケネディ政権によってジェミニ計画とアポロ計画が開始され同時に進められていました。
あの名言の裏側
ニーム・アームストロングと言えば、こののセリフが有名です。
これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である。
That's one small step for a man, one giant leap for mankind.
これは、月面着陸して(世界時間20:17)から、船外活動をする(世界時間2:56)まで、することがなく暇だったので、その間に考えたと言われています。
セカンドマン、バズ・オルドリン
さて、月面着陸と言えばニーム・アームストロング、ニームアームストロングと言えば人類初の月面探索ですが、彼と共に宇宙探索をした宇宙飛行士はもう一人いました。
そう、それこそセカンドマン、バズ・オルドリン!!
宇宙飛行士らしくない逸話
バズオルドリンで大好きな話があります。
アームストロングと共に月面着陸に成功したバズには大きな夢がありました。それは、
人類で最初に月の大地を踏みしめること
彼にはその自信がありました。なぜなら、月面着陸に使われる探査機、その設計をした人物こそバズ・オルドリン本人だったからです。彼はさらに動きます。船長のニールに話をつけたり、直接NASAの長官に掛け合ったりもしました。
しかし、彼の夢は叶いませんでした。
月面歩行を行った「史上2番目の人類、セカンドマン」この件に関してバズはその後も不満を周囲に漏らし続けます。この一件が原因かは不明ですが、その後鬱病になり、合わせ技でアルコール中毒にもなってしまいます。
私たちの考える宇宙飛行士と言えば、完璧超人でどんな事態にも冷静に対処するイメージですが、この逸話は宇宙飛行士らしくない、非常に人間味溢れる話です。
さらに、自身の初体験はニューメキシコ州の買春宿で、その時自身の陰部が腐ってしまえと思った事を告白するなど、どこか憎めない話がたくさんあります。
そして大人気アニメのキャラクターへ
その後バズは、無事うつ病からもアル中からも回復しました。そして、今ではアメリカで最も有名で人気のある宇宙飛行士の1人になっています。
偉大な父親の存在、ニールアームストロングとの軋轢、うつ病、アル中、そして、そんなどん底からの復活。どれもツッコミどころ満載で、愛着を湧きやすく、物語として良くできています。
そんな彼の人気を物語るのが、後に大人気シリーズとなるアニメのキャラクターです。それはズバリ!
大人気トイストーリーに欠かせないキャラクター、バズライトイヤー。その名前のモデルこそバズ・オルドリンなのです!
月は死の象徴
最初に、月や穴は死の象徴だという話をしました。太古より昼間に出る太陽は生命や躍動とされ、一方夜にある月は死や静寂の象徴とされてきました。
最近では高畑勲監督の「かぐや姫の物語」で月は死の世界として描かれており、漫画家小畑健氏の「DEATH NOTE」で死神と行動する主人公の名前は夜神月(やがみライト)です。
映画冒頭で空軍時代のニールがやっていたX-15のテストは24%で死ぬと言われ、彼はそれを毎週のように繰り返していました。
そして、妻にも問いただされた月面探査の成功率を、彼自身は50%だったと後に語っています。
日々死と隣り合わせの日常、そして娘の死。そんな男が最終的には死そのものである月に行ってします。そんな、見方によっては少し皮肉な作品です。
劇中なんども、死にかけたり、死に触れる度に、ニールは月を見上げます。それは、彼が死と正面から向かい合っている瞬間なのではないでしょうか。