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映画「鳩の撃退法」みんなが語らない本当のオチ【ネタバレあり】

公開から1週間経ってしまいましたが、劇場で視聴してきました。

めちゃめちゃ面白かったです!なんなら傑作と呼べるレベルかもしれません。

ネタバレを見た後にもう一度見て楽しめる類の映画なので、まだ劇場で見てない方は、先に視聴するのがオススメです。

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邦画の悪いところとして説明が過剰問題がありますが、鳩の撃退法ではそういった描写がほとんどなく、グングン物語が進んでいきます。

過度に感情的になるシーンもなく、良い意味で邦画らしくない邦画でした。

 

 

基本情報

同名の原作小説の映像化作品です。

監督はテレビ出身のタカハタ秀太監督。製作は松竹と電通が中心の委員会です。

原作の佐藤正午はデビュー作「永遠の1/2」や「リボルバー」など、複数の映像化作品があります。

 

主要キャストと予告編

ご覧の通り豪華キャストです。

予告編はこちら↓ですが、正直予告編より本編の方が何倍も面白いです。

www.youtube.com

予告編にも出てくるキャッチコピー「この男が書いた小説(ウソ)を見破れるか?」、これが映画のオチとなりそうですが、ネタバレと考察を書いていきます。

 

 

表面的なオチとネタバレ

ここから重大なネタバレを書きますので注意してください。

 

映画クライマックスで、映像では幸地一家と不倫相手の生存が描かれるが、実際には秀吉(風間俊介)が手をたたき始めた時点から津田(藤原竜也)の妄想(小説)になっている。

現実は、秀吉の妻と不倫相手は処分され、秀吉は倉田(豊川悦司)と変わらず一緒にいる。

 

 

これが表面的なオチです。

津田が小説をフィクションにする事で、倉田の警戒から逃れたという見方もできます。

しかし、原作が発売された当初、主人公津田伸一名義で以下のコメントを残されています。

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つまり、表面的なオチではない可能性が十分にあるのです。

ここからは少し深読みをしていきます。

 

信頼できない語り手問題

小説の技法に「信頼できない語り手」があります。

小説や映画などで物語を進める手法の一つで、語り手(ナレーター、語り部)の信頼性を著しく低いものにすることにより、読者や観客を惑わせたりミスリードしたりするものである(wikipediaより)

「鳩の撃退法」は現実と小説の間が非常に曖昧に描かれています。書き方の問題もありますが、語り手の問題もあります。この作品では大きく3つの語り手がいます。

  1. 小説の中の津田伸一
  2. 1について語る現実の津田伸一
  3. 1と2について語る津田伸一

1は小説の中の話で、基本的に妄想の話なので、その点で信用ができません。

2は信じても良さそうです。

3がやっかいです。度々でてきますが、これがミスリードの原因になっている気がします。3存在することによって、現実の妄想の判断が非常に難しくなっています。

 

信用できない語り手のオススメ作品

鳩の撃退法ほど難しくなく、作中でしっかりオチを説明してくれる作品を紹介します。

いずれも作中の人物が悪意なく嘘をついているため、信用できな語り手とギリギリ言える作品です。

信用できない語り手の作品として見ると面白さが半減しそうなオチですが、何度見ても面白いので大丈夫です。

イケア、スタバ、タワマンなど、いけてる消費文化に疲れてる人がみてもスカッとする映画です。

少年と虎とのドキドキ漂流話だと思ったら、なぜ人は物語するのか?といった深いところまで行った作品。

今回おすすめの3作品のなかでは最も入りやすく、物語内で物語する感じが鳩の撃退法と同じ構造で、どこまでが本当の話かを想像しながら観る作品です。

 

土屋太鳳ちゃん髪型変わってる問題

物語の途中、土屋太鳳さん演じる鳥飼なほみが富山に行くシーンがあります。

「津田伸一が書いた小説は現実の事件だ」と確証を得る大事なシーンですが、このシーンだけ鳥飼の髪型がショートカットになっています。

明らかにわざとやっているので、このショートカットには他との違いを際立たせる意味があります。

観客はこのシーンを「現実」と思っていますが、実際には「小説の中」だとすればどうでしょうか?

だいぶ事情が変わって来ます。

 

津田は倉田と会ってない問題

ラスボスとして描かれるのが倉田(豊川悦司)ですが、よく考えてください。劇中、津田は一度も倉田に会っていません

電話でやりとりしたことはありましたが、直接会ったことはありません。イメージとして豊川悦司が演じていますが、全て津田の妄想と考えることができます。

 

本当のオチは何か

ここまで書いたことをまとめて考えられる本当のオチは劇中描かれるほとんどが小説(ウソ)だということです。

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これは公式の画像ですが「119分、すべててを疑え。」とあります。つまり、劇中のほんとが小説(ウソ)であってもおかしくありません。

 

また、映画の最後に

注:この物語はフィックションです。実在の人物や団体とは関係ありません。僕、津田伸一以外は。

と思わせぶりなメッセージが出てきます。

これも言い換えると、津田伸一以外は小説(ウソ)と言えるのです。

 

それを考えるために、まずは映画内の時系列を整理してみましょう。

 

時系列整理

映画内では下記のように物語が進みます。

2月28日

  • 秀吉、倉田から預かりものを頼まれる
  • 秀吉、妻・菜々美から妊娠を告げられる
  • 秀吉が経営するバー・スピンのアルバイト・佐野が勘違いをし、倉田が秀吉に預けた鳩を持ち出してしまう
  • 佐野、同じ大学に通う恋人・田中に「金を貸してほしい」と頼まれ、鳩を渡す
  • 津田、房州書店でピーターパンの本を買う

 

2月29日

  • 田中、恋人の佐野から受け取った鳴を加賀まりこに渡す。(鳴がデリヘル嬢・加賀まりこの元に)
  • 津田、コーヒーショップで秀吉と出会う
  • まりこ、津田を呼び出し、借りていた金を返す(鳩が津田の元に、鳩を来としてピーターパンの本に挟む)
  • 津田、まりこに頼まれて郵便局員・晴山を無人駅まで送る
  • 秀吉一家が失踪する
  • 津田、アルバイトの面接を受けにきた奥平親子を自宅まで送る。その際に子供が鳩が挟まったピーターパンの本を持ち出す。(鳩が奥平親子の元に)

 

3月

  • 奥平、鳩が挟まったピーターパンの本を房州老人に預ける(鳩が房州老人の元に)
  • 房州老人が死亡
  • 津田、房州老人の遺品として大量の札束とピーターパンの本が 入ったキャリーケースを受け取る。(再び鳩が津田の元に)
  • 津田が床屋で使った一万円がニセ札であることが発覚。

 

7月

  • 倉田、津田の居場所を突き止める
  • 津田、倉田の手下にピーターパンの本とキャリーケースを渡す
  • 津田、床屋のまえだの紹介で東京にあるバー・オリビアに逃げる

 

本当のことは3つだけ

しかし、津田は本来知り得ない情報を知っています。秀吉のバックボーン、妻との事情、倉田の行動などなど。

つまり、ほとんどは津田の妄想で、事実は

  • 一家失踪事件
  • 偽札事件
  • 倉田という男の噂

この3つのみが事実であり、それを脳内で物語にしたのが「鳩の撃退法」なのです。

奇しくも倉田自身から、それを思わせるセリフが出てきます。

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劇中では「パソコンを持ってない」と言っていた津田が、別のシーンではパソコンで小説を書いています。

つまり、一家失踪事件、偽札事件、倉田という男の噂、を元に小説を書いている津田だけが本当なのです。

それ以外は小説(ウソ)、あるいは劇中劇だと思って映画を見返してみると発見があるでしょう。

映像で起こったことをありのまま受け取れば、津田はただの巻き込まれた一般人に過ぎませんが、全てが小説内の出来事となれば、津田は世界を作った神のような存在になれます。

 

キーとなる本

最後に「鳩の撃退法」でキーアイテムとなった本の紹介です(作中はおそらく福音館書店の本ですが)

「別の場所で2人が出会っていれば幸せになれるはずだった」と帯にありますが、この2人は津田と幸地のことでしょう。

失踪してしまった幸地との出会いを変えることによって、幸地は小説の中で死ぬ運命を免れた。津田は小説家の脳を使って幸地にハッピーエンドを与えたのです。

永遠に変わらないピーターパンと、成長して大人になるウェンディの話です。

一方は変わらず、しかし一方は変わっていくのは物語の王道で、同じ構造がトイストーリーやクマのプーさんです。

児童小説の体を取っていますが、大人こそハマる話です。ぜひ最終章だけでも読んでみてください。