こんにちは智蔵()です。久しぶりに大学入試の過去問解説をしたいと思います。今回は一橋大学の2010年の英文からです。
注意点は以下の通りです。
- 平易な言葉を使う
- 要約だけで文章の流れが分かるようにする
- トピックの背景知識や関連知識も見に付く様にする
- 内容は過去問を買って自分で確認してね
それではやって行きましょう!
この記事の要約
一橋大学2010年の英語の問題をネタに、世襲主義と能力主義について解説する。
世襲主義は自分の社会的地位が低くても言い訳できるが、有能な人間にとっては不満な社会にあんる。能力主義は、有能な人間にとっては良い社会だが、無能にはシンドイ社会になる。
元ネタ
正確な元ネタはわかりませんでしたが、内容的にはマイケル・ヤングのメルトクラシーです。
最近では有名なマイケル・サンデル教授が同じテーマで本を書いています。
一橋大学2010年英語:能力主義への移行と功罪
簡易版要約
パラ1:社会的立場と人格は一致しない
パラ2:地位と人間としての価値が無関係であることは主張するのが厳しかった
パラ3:世襲制が合理的か、文学界で例えて考えてみよう
パラ4:世襲制はバカげている
パラ5:社会的地位と内面的資質は無関係でなくなってきた
パラ6:能力と社会的地位が結びついた結果、金持ちは優れている可能性が生じた
パラ7:能力主義のおかげて、人は自分の能力を十分発揮できるようになった
パラ8:その結果、地位の低い人は、それが当然の報いであると思われるようになった
パラ9:貧者は、世襲主義の時に逃れられていた恥の意識を感じるようになった
パラ10:善良で貧しいなら何故貧しいのか?という問いが発生している
要約
パラ1:イエス・キリストは大工であり、彼を処刑したピラトは総督であったように、社会的立場と人間の価値は一致しない。
パラ2:封建的な世襲主義の時代には、地位と人間としての価値が無関係であることを主張するのは難しかった。
パラ3:世襲制が合理的か、文学界で例えて考えてみよう。本を選ぶ時に大事なのは、その本が良いか否かであって、著者の両親がいかなる人物であるかは関係ない。
パラ4:世襲による国の統治は、世襲による作家と同様にバカげている。
パラ5:仕事と報酬が客観的な面接と試験をへて配分されるようになった結果、社会的地位と内面的資質は無関係でなくなってきた。
パラ6:能力主義の世界では報酬と仕事は個人の知性と能力に基づくようになった。その結果、金持ちは裕福なだけではなく、他人よりも優れている者である可能性が生じてきた。
パラ7:能力主義のおかげて、人々は自分の能力を十分発揮できるようになった。出自はもはや出世において乗り越えられない障害ではなくなった。
パラ8:成功者がその能力によって成功するのであれば、失敗者はその能力によって失敗することになる。つまり、地位の低い人は、それが当然の報いであると思われるようになった。
パラ9:経済的能力主義の世界では、個人に、父から財産を相続していた貴族が得られない個人的達成感をもたらし、一方、成功の機会を奪われていた小作人が感じずに済んだ恥の意識を感じさせる事になった。
パラ10:善良で貧しいなら何故貧しいのか?という落伍者には厳しい問いが発生している。
ポイント
イエスキリスト生きていたような封建的な時代では、個人の資質よりも門地(=生まれや家柄)が重視されていた。一方現代では、どこに生まれたかは然程重要ではなく、その個人がどういう人物であるかが重視されてきた。
これが、本文の前提となっている話です。その変化を軸に各時代の「辛さ」を指摘しています。
まとめると次の通りです
世襲主義
長所:社会的地位が低くても言い訳できる
短所:能力あっても社会的地位を得る事はできない
長所:能力があれば社会的成功や地位を得る事が出来る
短所:能力が無いと得られるものが少ない
階級が固定された社会は辛い、封建社会を擁護するのは厳しい。
私自身、この文章を読むまで世襲主義にメリットはないと思っていました。が、まさかの利点がありました。
自分の地位が低くても言い訳できる。
地位が低くても言い訳できる!
地位が低くても言い訳できる!
世襲制で階級が固定されていれば、自分の不出世は自分の力ではありません。
それは天から与えられた属性であり、なんの疑問の余地もなく与えられた職務を全うすればいい。
極論を言えば、世の中への不満は全て生まれのせい、そう考えれば自分は常に被害者でいられます。
お金がないのも、モテないのも、友達がいないのも、ブサイクなのも、頭が悪いのも、誰かに裏切られるのも、周りの人が優しくないのも、人を不快にするのも、全て生まれのせい。自分は可哀想な被害者でいつづけられるのです。
今回の解説は以上です。
ここから先は雑談です。
なぜ近代市民革命は起きたのか?
歴史、そして現代のあり方を見れば、世襲制の長所は継承されませんでした。その結果が清教徒革命であり、フランス革命であり、アメリカの独立戦争です。
これらは全て封建制や世襲制への反対運動です。腐敗した政治、固定された階級、自分たちを縛る国家や制度、これら一切を打倒して、現在の民主主義は築かれました。
旧政権や旧体制は一体何がダメだったのでしょうか。押さえておきたいキーワードは「固定」です。
固定した社会は覆される
「社会階層が固定すると人々は暴動を起こす」そんな法則があります。
市民革命が起きた理由もこれで説明できます。努力が認められない社会はいずれその不満が爆発して、革命や政変が怒ります。
固定した階級は、自分が何者にもなれない言い訳を与えてくれます。しかし同時にそれは、どうあがいても自分が何者にもなれない絶望を与えます。
恋愛における告白や人生の選択において「やたなかった後悔よりもやった後悔」的な言い回しがありますが、階級が固定されてしまうと、そもそもの選択の余地すら与えられないのです。
なぜ福祉政策は重要なのか?
ここまで説明すると、なぜ日本やアメリカの様な超資本主義国家で福祉が必要なのかも理解できます。
福祉政策とは社会的「弱者」への救済政策ですが、その原資は資本主義「強者」であるお金持ちから税金です。
お金持ちの立場からするとたまったものではありません。自分が汗水垂らして稼いだお金が、(少なくとも彼らから見て)大して努力もしていない人々へ強制的に分配される制度は気持ちの良いものではありません。
しかし資本主義での強者と弱者の格差を放置しすぎると、資本家と労働者の階層が固定化してしまいます。それはまるで中世の領主と小作人の関係であり。中世の封建制度がそうであったように、その先に待っているのは血と暴力による革命です。
弱者を放置するといずれ弱者に殺されてしまう。一見理不尽な政策に見えて、実は福祉政策は強者にもメリットのある制度なのです。
未来へ希望があれば人は頑張れる
大事なのは未来への可能性です。努力によって逆転が可能だと思える内は革命は起きません。
革命が起こさないためには、弱者の可能性を無くすことを避けなければなりません。失敗しても大丈夫、真面目に生きていれば再起可能、努力できれば生きていける、そんな社会が必要なのです。
「日本ではすでに格差が広がって階層が固定している!」と主張する人々もいますが、日本はまだまだ逆転の余地がある社会だと思っています。
やる気さえあれば有名講師の授業が数千円で受講できますし、図書館に行けば無料で本を読むこともできます。
努力とスキルを他者に証明できれば日本では生きることが可能です。理想郷ではないけれど、日本は努力の余地がある、世界的にも稀な社会です。
能力主義社会における永い言い訳
才能、コネ、学歴、縁故、特権、それらをダシに他者を蔑んでいませんか。
確かにそれらの要素はゼロではありません。しかしそれを含めて個人のパーソナリティです。
やってみるとわかりますが、コネも大変で実際面倒くさいです。仮に紹介した人物が無能だったとき、紹介する方にもされた方にもマイナス評価がついてしまいます。
正規のルートであれば誰も文句は言いませんが、知人が関わってくると面倒が激増します。
コネ案件は両者に相応のリスクを与えます。だから実情では有能な(あるいはそう見える)人物の所にしかコネの話はやってきません。
コネや学歴があってもダメな人はやっぱりダメ。であれば、それらは社会的成功の絶対条件ではありません。
能力主義の世界においては、もはや言い訳は通用しないのです。真摯に自分の現状を受け止め、精神がボロボロになりながらも、細く小さい次の一歩を踏み出さなければならないのです。
既に気付いているかもしれませんが、羨ましいと思っている相手は実は憧れている相手なのです。
怒りや恨みを持つ人を見つけたら、実はそこに自分の願望がある事を認めて下さい。その上で、そこに向かう方法を考えて下さい。
さらに知見を深めたい人へ
冒頭でサンデル教授の著書を紹介しましたが、TEDの動画もありました。
8分程度の動画なので受験勉強の息抜きにでもみてみ下さい。
長い雑談ありがとうございました。