2015年で読んだ本で一番面白かった本を紹介しようと思う。橘玲氏の「残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法」である。なんとも壮大なタイトルである。この本は、元々2010年に出版された本が昨年文庫化されたものだ。
■要約と結論
この本以下の5章からなる
1章 能力は向上するか?
2章 自分は変えられるか?
3章 他人を支配できるか?
4章 幸福になれるか?
終章 恐竜の中に頭を探せ!
これを、ものすごーく乱暴に要約し結論を書くとこうなる。
1章 能力は開発できるか?→できない。
2章 自分は変えられるか?→変えれない。
3章 他人を変えられるか?→変えれるが、同様に変えられる。
4章 金銭的成功で幸福になれるか?→なれない。
終章 じゃあどうすんの?→伽藍を出てバザールへ向かえ
最後だけ補足すると、要は「旧態とした組織やコミュニティーを出てグローバルマーケットに出よ」ってことだと解釈してる。
■肝はなにか
ここまでさらっと結論まで書いてしまったが、この本が凄いのは結論を聞いても内容が目減りしない事である。上記の結論に至る論理こそがこの本の肝である。
能力は開発できない。自分は変われない。これらの結論は現在の潮流には相容れない。そんな事を言ってしまえば、教育産業は成り立たないし、社内研修も意味ない事になってしまう。
「やればできるか?」「いやできない」、じゃあこうしよう。と、著者橘玲氏が、古今東西の研究や実験結果を引用しつつ説いてゆく。このロジックが非常に面白い!というか腑に落ちる。そのロジックを補完する論を一部紹介すると。
・勝間勝代と香山リカの議論はなぜ噛み合わないのか?
・性格は遺伝か環境か?知性は遺伝か環境か?
・人間が基本的にネガティブな理由
・遺伝的に正しい生き方
・囚人のジレンマ必勝法
などなど。どれも単独で誰かと小一時間議論したくなる内容ばかりだ。興味持った方は是非御一読を、そした面白ければ続編(理論実践編?)的なこちらもオススメです。
貧乏はお金持ち──「雇われない生き方」で格差社会を逆転する (講談社+α文庫)
- 作者: 橘玲
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/03/22
- メディア: 文庫
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■ ジャイアンはジャイアンでいれるか問題
ココからは閑話だ、読みながら思ったことを少し書いてゆく。先に例に挙げた命題の「性格はどうやって決まるのか?」という話に対し、本書ではアメリカの心理学者ジュディスリッチハリスの論を引用している。(おそらく元ネタはこれ↓)
- 作者: ジュディス・リッチハリス,Judith Rich Harris,石田理恵
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2000/01
- メディア: 単行本
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ハリスの論を要約すると、親の愛情は子供の成長に関係ない、という話だ(本書では「暴論」と括弧付きで書かれている)。じゃあ何が関係するのかといえば、子供集団での関係性、である。
確かに「子供の成長に親の愛情は関係ない」は言い過ぎかも知れないが、「性格が集団内の関係性で獲得される」というのは分からんでもない。
例えば皆が良く知るあのジャイアンがある日転校したとしよう。そして転校先のクラスがたまたま全員ジャイアンみたいな人間だったとする。その時、彼はそれまで通りのジャイアンでいられるのであろうか?彼はのび太やスネ夫といったあの集団の中だからこそジャイアンだったのであり、ジャイアン的な集団内でジャイアン性を維持するのは難しいだろう。
ハリスの論は子供の性格に限定しているが、ミツバチやアリの3:4:3の法則よろしく(3割真面目で4割普通で3割サボってるアレ)、関係性の中で性格が選択されるというのは、大人になってからも当てはまるんじゃなかろうか。個人に本当の性格があるのかはわからないが、少なくとも組織やコミュニティー内で顕在している各々の性格は、ある程度各人の関係性に影響されていると思う。
これは自己の性格の不一致に悩む人には福音だ。自分の性格が他者との関係性で決まるのであれば、本来の自分なんてものは元々ないのだ。ペルソナ問題ははなっから存在せず。さらに自分がなりたい性格や人格があるのなら、その性格になれる集団を探せば解決するのだ。
軽く読み飛ばした人のために結論をいうと、自分の居場所は自分で探すんやでー、って話である。